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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)6153号 判決

原告

兵庫シヤープ電機株式会社

右代表者

岸達也

右訴訟代理人

宮井康雄

被告

財団法人日本奉仕会

右代表者理事

浜田章盛

右訴訟代理人

張有忠

主文

当裁判所が昭和四九年(手ワ)第一二八二号約束手形金請求事件につき同年一二月一六日言渡した手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因(二)は当事者間に争いがなく、同(一)、(三)は被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二成立に争いのない乙第一号証(寄附行為)によると、被告法人にあつては寄附行為第一八条に会長が法人を代表し、会長が欠けたときは専務理事がその職務を代行する旨の定めがあり、会長もしくは専務理事が被告の代表権を有しその他の理事は代表権を有しない趣旨であることが認められるが、証人野島譲の証言によると、被告法人においては現在会長は空席であり、かつ、専務理事も置かれていないことが認められる。このように寄附行為により定められた法人を代表すべき会長もしくは専務理事が存しない場合にはいずれの理事も各自代表権を有するものというべきである。けだし寄附行為に定められた会長もしくは専務理事の存する場合に限りその他の理事は代表権を制限され法人を代表しえない趣旨と解するのが相当だからである。なお、証人野島譲の証言中には被告法人にあつては理事長が置かれそれが法人を代表し、野島が理事長である旨の証言が存するが、かりに被告の内部規程で理事長があり、各理事の代表権を制限しているとしても、寄附行為に理事長の存することやその代表権につき定めがない以上、前記結論を左右しない。

そうだとすると浜田章盛が被告の理事であることは当事者間に争いがないから、浜田章盛を代表者としてなした訴訟行為が無効であるとか、本件手形の裏書は被告を代表する者によつてなされていないから効力がないとか、浜田の代表権は制限があり原告は善意の第三者ではない等の被告の主張は失当たるを免れない。

三また本件裏書は浜田個人の裏書であるとの主張については、被告代表者本人の供述中にはこれに沿う部分があるが、右供述はたやすく措信できず、他にこれを認めるにたる証拠がないから右主張は採用できない。

四被告は本件手形の裏書は支払を保証するための裏書であり、かかる裏書行為は被告法人の目的の範囲外の行為であると主張するので検討する。

〈証拠〉を総合すると、被告は被告法人兵庫県支部を設ける準備をしていたこと、訴外安岡保浩こと安岡豫緒を同支部の支部長ないし事務局長にして同支部の活動をまかすことにしていたこと、被告は右安岡から支部をまかすための保証金をうけとつていたこと、右安岡は被告法人兵庫県支部名義で原告から電機製品を買入れ、その代金支払のため振出人京阪神建設株式会社の額面五〇〇万円の約束手形一通を交付していたこと、右手形が決済できないので右安岡、原告および被告の理事浜田らが話合い、本件手形に書替えたこと、その際被告の理事浜田が保証のため被告名義で裏書したこと、被告は被告法人兵庫県支部をまかすことにしていた訴外安岡が同支部の名義で原告と取引し、その支払ができず紛争になつたのでその解決のため理事の浜田を交渉にあたらせたことが認められる。

右事実によれば被告は被告法人兵庫県支部を設け、訴外安岡に同支部をまかすことにしていたところ、訴外安岡が同支部名義で原告と取引し、その代金支払のため交付していた手形が決済されず紛争になつたので、被告としてその解決につき責任を感じ、理事の浜田を交渉にあたらせ、話合いのうえ右手形を本件手形に書替え、その際紛争解決のために被告の理事浜田が保証の趣旨で被告名義を用いて裏書したものということができる。このように本件裏書は単なる手形保証のためのものではなく、被告法人兵庫県支部の支部長にすることにしていた訴外安岡の同支部名義の取引により生じた紛争の解決のためになされた裏書であるから、被告法人の目的がその主張のとおりであつても本件裏書をもつてその目的の範囲外の行為であるとはいえない。したがつて本件裏書が目的の範囲外の行為であるとの主張は採用しない。

五被告の主張(五)は主張自体理由がない。

六よつて被告の主張はいずれも理由がなく、結局原告の本訴請求は理由があり認容すべきであるから、これと符合する本件手形判決は民訴法四五七条一項により認可することとし、訴訟費用の負担につき同法四五八条一項、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(清水正美)

約束手形目録

一、金額  五〇万円

支払期日  昭和四九年八月三日

支払地  大阪市

支払場所  大阪商工信用金庫阿倍野支店

振出地  大阪市

振出日  同年七月一七日

振出人  京阪神建設株式会社

受取人  被告

裏書関係  受取人白地裏書

二、金額  三五〇万円

支払期日  同年八月一七日

その他の手形要件は手形一に同じ。

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